2019年11月

2019年11月10日

国土交通省が高裁敗訴判決を受けて、違法行為を戒める布達を発出していた !

国土交通省が高裁敗訴判決を受けて、違法行為を戒める布達を発出していた !
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1. はじめに

私が、同じ事務所の小川隆太郎弁護士と共同で担当してきた島崎武雄氏の国交省への国家賠償請求訴訟が、東京高裁で勝訴し、国によって上告されることなく確定したことは、このフェイスブックでも、すでにご報告しました(
http://www.tokyokyodo-law.com/国土交通省による国民の請願権を侵害する違法な/
)が、この件について、続報がありますのでお知らせします。
実は、この件について、この判決確定を踏まえて、初鹿明博衆議院議員にお願いして、質問主意書を提出していただきました。

2. 国土交通省による請願権等侵害を認めた確定判決に関する質問主意書

実は、この件について、この判決確定を踏まえて、初鹿明博議員にお願いして、質問主意書を提出していただきました。その質問主意書は以下のような中身のものです。

「本年四月十日、東京高等裁判所は、国土交通省により株式会社地域開発研究所元代表取締役社長(以下、「元社長」という。)の請願権(憲法第十六条)等が侵害されたとして、国に対して五百二十八万円の損害賠償の支払いを命じる判決を下しました(東京高等裁判所平成二十九年(ネ)第四七二六号損害賠償請求控訴事件)。
 当該判決で東京高等裁判所は以下のとおり判断しています。
 ① 公益法人・随意契約問題について、国土交通省本省担当官の行為は、地域開発研究所に対する違法な介入である。
 ② 東京湾第二海堡問題について、関東地方整備局港湾空港部担当官及びその部下の行為は、憲法第十六条に定められた請願権等を侵害し、地域開発研究所の自主的な経営への違憲・違法な介入にとどまらず、元社長個人に対する違憲・違法な制裁でもある。
 同判決は国土交通省側が上告せず確定しており、国土交通省としても上記違憲・違法行為を確認したのだと理解されます。
 そこで、以下質問します。

一 この東京高等裁判所の確定判決において認定された違憲・違法行為に関して、国土交通省が行った事実調査の有無及びその内容について、政府が承知していることを明らかにすべし。
二 この東京高等裁判所の確定判決を受けて、認定された違憲・違法行為に関与した職員・元職員らに対して、国土交通省が行った懲戒処分の有無及びその内容について、政府が承知していることを明らかにすべし。(当該懲戒処分について未だ検討中であれば、その事実関係及び遅れている理由を明らかにすべし。)
三 この東京高等裁判所の確定判決を受けて、同判決が認定したものと同種同様の違憲・違法行為の再発防止のために国土交通省がとった方策の有無及びその内容について、政府が承知していることを明らかにすべし。(当該方策について未だ検討中であれば、その事実関係及び遅れている理由を明らかにすべし。)
 右質問する。」


3. このたび、これに対する答弁書が出されました。
この答弁書の中身は次のようなものでした。

「令和元年十月十五日受領
答弁第四号
  内閣衆質二〇〇第四号
  令和元年十月十五日

内閣総理大臣 安倍晋三

       衆議院議長 大島理森 殿

衆議院議員初鹿明博君提出国土交通省による請願権等侵害を認めた確定判決に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

衆議院議員初鹿明博君提出国土交通省による請願権等侵害を認めた確定判決に関する質問に対する答弁書

一について
 国土交通省においては、御指摘の判決において示された認定事実について、現在、事実関係の調査を行っているところである。

二について
 一についてでお答えしたとおり、現在、国土交通省において事実関係の調査を行っているところであり、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第八十二条第一項に規定する懲戒処分を行うかどうかについては、その結果を踏まえて検討を行うこととしている。

三について
 御指摘の判決を受けて、国土交通省においては、平成三十一年四月二十五日に同省大臣官房長から、同省本省内部部局の長、同省地方支分部局の長等に対して、適正な業務執行について、文書により周知を行っており、民間企業及びその役職員等に対して、法令の根拠に基づかない介入や、その疑念を抱かれるような行為をしないよう、服務規程の保持及び法令遵守の徹底に努めているところである。」

4. 国土交通省が発出した布達の内容・意義
この答弁書によって、国土交通省が、私たちが勝ち取った判決の確定を受けて、布達を出していたことがわかりました。この布達も、初鹿議員を通じて入手することができました。布達の内容は、以下のようなものです。

「「国交省布達2019.4.25」
国官人第217号
平成31年4月25日
内部部局の長 殿
施設等機関の長 殿
特別の機関の長 殿
地方支分部局の長 殿
外局の長 殿

大 臣 官 房 長
 (公 印 省 略)

適正な業務執行について

今般、国土交通省の職員が、民間企業及びその役員に対し,法令の根拠に基づかない介入を行い、民間企業の役員に損害を与えたとして、当該役員に対する国家賠償法上の損害賠償を命じる東京高等裁判所の判決が確定した。
国士交通省としては、違法行為はなかったと主張してきたところだが、判決では以下の行為が法令の根拠に基づかない介入として認定された。
・本省職員が、民間企業に対し、当該民間企業の役員の選解任を自発的なかたちで実行するよう求めた行為
・地方支分部局の職員が、民間企業に対し、発注停止を示唆した行為
・地方支分部局の職員が、民間企業の役員に対し、役員からの退任や退職を求めた行為 
 国土交通省においては、これまでも職員に対し、法令遵守を徹底するよう,各般の取り組みを進めてきたところであるが、今後とも、所管行妝を的確に推進していくためには、とりわけ発注関係業務に携わる職員一人一人が、公正を旨とすることを肝に銘じて、厳しく自らの身を律しながら職務の遂行を図っていかなければならない。
各機関においては、この判決を重く受け止め、民間企業及びその役職員等に対して、法令の根拠に基づかない介入や、その疑念を抱かれるような行為をしないよう、あらためて服務規程の保持及び法令遵守の徹底に努める冒を、所属職員に対して周知されたい。  
(以上)」
 
高等裁判所の国の敗訴判決が、国が上告することなく確定したことを受けて、国土交通省の大臣官房長がこのような布達を発出し、同じような違法行為を繰り返さないように、所属機関を戒めるということは、当たり前のことではありますが、どんな違法の限りを尽くしても、居直っているようにしか見えない安倍政権の下で、このような布達が発出されたことは、やはり画期的なことで、正しい対応だと思います。この布達が有効に機能し、適法な請願権の行使によって市民が不利益な扱いを受けるような事例が根絶されることを強く望みます。
島崎さんのご依頼で、このような訴訟の提起をお手伝いすることができて、本当に良かったなと思います。

5. 今後の課題
この答弁書の二項で、「現在、国土交通省において事実関係の調査を行っているところであり、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第八十二条第一項に規定する懲戒処分を行うかどうかについては、その結果を踏まえて検討を行うこととしている。」とされ、今後、事実関係を精査して必要があれば違法行為に関与した職員の処分を検討するとされている点も、今後の対応を注目したいと思います。
そして、島崎さんの念願であった、公益法人への発注、コンサル会社への二次発注という形式で、中間搾取が横行し、結果として、国民の納めた税金の一部が無駄遣いされているという根本にある問題について、当初の随意契約方式が見直され、プロポーザル形式が原則とされるなど、一部改善はみられるものの、いまだ抜本的に改善されているとは言えない問題についても、引き続き政府の努力を見守りたいと思います。
以下に、原告であった島崎武雄氏、支援する会の代表であった熊本一規先生(明治学院大学名誉教授)、柴田武男先生(聖学院大学講師)のご意見を、「島崎さんを支える会」ニュース 第77号(2019.11.1(金)発行)から引用します。

6. 原告だった島崎武雄氏の意見
初鹿(はつしか)明博衆議院議員(立憲民主党)のご尽力により,本裁判の結果を受けて国土省内部で発布された「国交省布達2019.4.25」(略称)を入手することができました。内容を見ますと,判決の一部に的確に対応しており,国交省は、この布達を遵守する気があるのかも知れないと言う期待を抱かせます。
国交省は,国交省を批判する民間組織に対し,セカンドにプレッシャーを加え,トップを追放させると言う陰湿な伝統的手法を今後,採用しないということでしょうか。それが事実なら,公益法人改革への第一歩となります。
しかし,そうであったとしても,まだ一歩に過ぎません。公益法人改革は,まだまだ大きな課題です。「なお,初鹿議員による国会質問の日時は,まだ未定です。(島崎 武雄)

7. 熊本一規先生の意見 「国交省布達2019.4.25」に対する感想
国交省布達(2019.4.25)の内容は、東京高裁2019年4月10日判決の内容を真摯に受けとめたもので、高く評価できると思います。
このような布達が判決から半月後に出されたことは、国交省がいかに判決を深刻に受け止め、同様な事態の再発を防ごうと努めたかを示していると思います。 
安倍政権下において官庁に嘘、捏造等が横行している現状にあって、このような真っ当な布達が出されたことは、意外でもありますが、それだけに余計に大いに喜びたいと思います。
 あとは、本事件で違法行為を犯した職員への処分を期待したいものです。初鹿議員の質問に期待しています。
      熊本一規(2019.10.27)

8. 柴田武男先生のご意見 「国交省布達2019.4.25」に対する感想
「真摯に受けとめたもので、高く評価できると思います。」ですよね。東電の刑事裁判とか行政不信が頂点ですからなかなか正直に受け取れない気持ちでしたが、これはなかなかです。逆に、裏があるのかと思うくらいまともです。よくここまで来たという思いです。
島崎さんの執念が実ったという気がしました。これは通知になるのでしょうか、通達となるのですか。 この文章の行政上の位置づけを教えてください。内容的には、「 法令の根拠に基づかない介入を行い、民間企業の役員に損害を与えたとして、当該役員に対する国家賠償法上の損害賠償を命じ」られたわけですから、国は「 国土交通省の職員 」にこの賠償金額の支払いを求めることになるのでしょうか。それにしても、島崎裁判が国交省の行政に大きく貢献したことは事実でしょう。私はかなり衝撃を与えたとして、「 発注関係業務に携わる職員一人一人が、公正を旨とすること」 を素直に期待したいです。
        柴田武男(2019.10.27)

9. 布達の意義について
柴田さんから、質問を受けましたので、「布達」とは何なのか、少し調べてみました。普通に辞書(大辞泉)を引くと、「1 広く一般に知らせること。また、その知らせ。2 明治19年(1886)以前に発布された省令・府県令などの行政命令」と記載されています。
太政官布達の中には、今も有効なものがあり、それらは命令ですから、通達よりは強い意味を持ちます。
今回出された文書に「国交省布達2019.4.25」とあり、これがどのような意味を持つものか、通達としての意味があるか、正確には国土交通省に聞くしかありませんが、ウェブに掲載されている「国土交通省 告示・通達一覧」http://www.mlit.go.jp/notice/ には、この布達は掲載されていません。ということは、これは、いわゆる「通知」と同意義のものではないかと考えます。今後、質問の機会があれば、この布達の意義も聞いてほしいと思います。

(以下の映像はこの件を取り上げてくださった日経コンストラクションの記事からの引用です。)

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