もんじゅ訴訟はもんじゅ廃炉に大きな役割を果たした王様化する最高裁に対する事実と法論理による反撃

2019年10月12日

監視社会の進展の中で共謀罪の廃止を展望する

監視社会の進展の中で共謀罪の廃止を展望する

 

                海渡雄一

          (共謀罪対策弁護団 共同代表)



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なぜ、共謀罪は廃止しなければならないのか

 2017年6月15日には共謀罪法が制定され、2019年6月で満二年が経過した。政府は2016年夏頃から共謀罪法案(組織犯罪処罰法改正案)をオリンピックのテロ対策のために必要であるとの宣伝をはじめ、2017年3月には国会に新たな「テロ等準備罪法案」が提出された。法案の衆議院法務委員会ではわずか30時間の議論で強行採決され、参議院法務委員会に至っては、わずか17時間50分しか議論されないまま、2017年6月15日午前7時46分の参議院本会議における「中間報告」(国会法56条の3)により法務委員会の採決が省略され、共謀罪法案の採決が強行された。

共謀罪のどこがまずいのか。これまでは、極めつけの重大犯罪である殺人や強盗・放火についても予備罪しかなく、それらの共謀罪はなかった。刑法で何をしてはいけないかということが決まっていて、そういうことをしない限り、人間の行動は自由であるということが自由主義社会の基本的な前提である。刑法が定める犯罪構成要件は、国家が刑事司法を通じて市民社会に介入するときの境界線を画すものだ。277の犯罪について共謀の段階から処罰できる「共謀罪法」の本質的危険性は、この自由の境界線というべき犯罪が成立する要件のレベルを大幅に引き下げ、どのような行為が犯罪として取締りの対象とされるかをあいまいにし、国家が市民の心の中にまで監視の眼を光らせ、犯罪構成要件の人権保障機能を破壊してしまうところにある。 

制定20年を迎える盗聴法の適用が飛躍的に拡大する危険性がある

2015年に改正された盗聴法(通信傍受法)が2019年6月1日から全面的に施行された。盗聴法が2000年に制定された際、私たちは大きな反対運動を組織して、これに抵抗した。反対運動の効果もあり、対象犯罪は覚せい剤などの薬物と銃器の取引、組織的殺人、集団密航の4種類の犯罪に限定した。また、傍受が適切に行われることを確保するために、NTTなど通信事業者の常時立ち会いを義務づけることとした。このような強い規制により、通信傍受を行った事件数、令状の発布件数は少しずつ増えてきたが、激増するには至っていなかった。

 2015年改正では、新たに、9つの犯罪が追加され、窃盗、詐欺、殺人、傷害、放火、誘拐、監禁、爆発物、児童ポルノが、盗聴可能犯罪となった。この中の窃盗と詐欺は刑務所に入っている人の数でいえば、圧倒的な多数で、犯罪件数が年間100万件を超えている。

一応、「当該罪に当たる行為が、あらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われるものに限る。」とされているが、共犯事件であれば、どれでも当たるほど緩い要件である。法改正によって盗聴ができる範囲が一気に拡がることは疑いない。

また、手続きも緩和される。具体的には、通信事業者は令状に示されたすべての通信を録音し、これに暗号をかけて、警察署に送信する。警察官は、警察署内でつでもこの暗号を解いて、傍受された通信を聞いたり、見たりすることができる。そして、この暗号化の方法を用いれば、外部の事業者の立会なく、都道府県の警察本部や検察庁で居ながらにして直接盗聴できることとなった。このような制度改正により、これまで必要以上の盗聴が規制されていた歯止めが破られ、その実施件数が飛躍的に拡大する危険性がある。盗聴の実態は国会に報告される。これを注視し、野放図な拡大を食い止めたい。 

生コン支部事件と労働運動の危機

共謀罪の施行から2年以上が経過した。幸いにして現時点では共謀罪による検挙・起訴は報告されていない。法適用が食い止められているのは、日弁連や市民団体、野党の国会議員による厳しい法案批判が展開され、これを受けた法務省当局による、「組織犯罪集団」や「計画」などの要件を限定し、適用の抑制を求める法解説(「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に 関する法律等の一部を改正する法律の解説」平成29年8月)が公表されていること、「共謀罪コンメンタール」(2019年現代人文社刊)の出版など、法適用に歯止めをかけるためのたゆまぬ努力があったからだ。

しかし、それで安心できるわけではない。懸念されるような警察捜査の事例が報告されている。沖縄の基地反対運動に対する威力業務妨害などによる大量検挙の例、普通の市民が取り組んだマンション反対運動で市民が暴行罪で検挙された無罪となった例も報告されている。とりわけ、関西で活動している、生コン関連労働者で組織する全日建関西地区生コン支部という労働組合の組合員60名以上が多数逮捕・起訴されるという刑事事件が、昨年から起きている。

この事件は、共謀罪が直接に適用された事件ではない。しかし、労働組合の日常的なコンプライアンス活動や争議権の行使の一部を犯罪事実として構成し、これに関与した組合員を、共謀を理由として、交渉・活動や争議行為の現場に一度も参加していない組合幹部や事業者まで含めて、のべ62人が逮捕され、今も5名の勾留が継続されている。そして、これらの事件では、例外なく、関係者のメールやラインなどが収集され、一般参加者までが警察の取調の対象とされている。一網打尽で検挙し、デジタル情報の収集によって関係者間の共謀を立証することで犯罪を立証しようとしている点において、共謀罪型弾圧の大規模な開始を告げるものだ。組織的威力業務妨害罪は共謀罪の対象犯罪である。このような共謀罪型弾圧が、仮に見過ごされ、捜査手法として定着してしまうと、将来、秘密保護法違反や共謀罪の事件が起こった際に、同様の共謀罪型弾圧がなされ得る。この重大事件について、一般のメディアは黙殺してほとんど報じていない。

確かに、ほとんどの労働組合がストライキをしなくなっている現代の日本では、生コン支部の原則的労働運動は、珍しい存在になっているかもしれない。しかし、過激な労働組合がやったことで、自分たちには関係ないと見過ごしていると、同様の弾圧が他の労働組合や原発反対・環境保護のための市民活動などにも広がって行きかねない。 

監視カメラと顔認証技術が結び付けば、究極の監視社会が現実のものとなりうる

西日本新聞の報道によると、「世界120都市の防犯・監視カメラの設置状況について英国の調査会社コンパリテックが調べたところ、住民千人当たりのカメラ設置台数(設置率)が多い上位10都市のうち8都市を中国が占めた。現在約2億台ある中国の監視カメラが2022年までに6億2600万台へ大幅に増加するとの推計も示し、監視社会が進む実態を指摘した。同社の報告書によると、監視カメラの設置率が最も高い都市は中国の重慶で、千人当たり168台に上った。2位は深圳(千人当たり159台)、3位上海(113台)、4位天津(92台)、5位済南(73台)と続いた。6位にロンドン(68台)が入ったが、7位は武漢(60台)、8位広州(52台)、9位北京(39台)と中国の都市が上位をほぼ独占した。10位は米アトランタ(15台)だった。

 少数民族ウイグル族への抑圧政策の一環として、多数のハイテク街頭カメラによる監視が指摘される中国新疆ウイグル自治区のウルムチは千人当たり12台で14位だった。公表された上位50都市に日本の都市は含まれなかった。」とされている。中国の監視カメラは顔認証技術と連動し、反政府活動や民族主義運動を行う市民は徹底的に監視されている。一般市民には、治安が改善したとして歓迎する声もあるというが、そもそも異を唱えることが不可能になっているともいえる。香港市民が逃亡犯条例に反対し、必死のデモを続けているのは、中国の監視システムに呑み込まれてしまうことを恐れているためであろう。このような中国の現実は、他人事ではない。手をこまねいていれば、日本も同じような状況となる可能性がある。

官邸ポリスの集めた情報で官僚・政治家を恐怖支配

2018年末に「官邸ポリス」と言う題名の本が講談社から出版された。著者は「東京大学法学部卒業、警察庁入庁、その後、退職」とだけ、紹介され、経歴も年齢もわからない。内容は、安倍政権に奉仕する官邸内の警察官僚をはじめとして、外務省、財務省、警視庁、さらには報道機関などの生々しい実態が描かれている。この本は、政権に奉仕し、政権をコントロールさえしようとしている、杉田官房副長官と北村滋内閣情報官ら官邸ポリスを告発するために、書かれた内部告発本のようだ。

最近の毎日新聞のインタビューで、前川喜平元文科事務次官は、「この本が本当 だとしたら、現代の特高警察だと思いますよ。私は2016年の9月か10月 ごろ、警察庁出身の杉田和博官房副 長官から官邸に呼び出され「新宿の出会い系バーというところに行っているそうじゃないか」と言われた。「週刊誌から聞いた話だ」と。それなら週刊誌が私のところに来るはずですが、来ませんでした。」。「菅さんが総理になれば、もっとひどい警察国家、恐怖政治になるのではないかと懸念しています。」「そういえば杉田さんに官邸に呼ばれた時、「○○省の○○ 次官にもそういうことがあったよ」と言われたんです。それで「みんな尾行されているのかな」と思った。弱みを握られている人は役人だけではなくて、与野党の政治家の中にも、メディアの中にもいるかもしれない。そう思いました。」と述べている(毎日新聞6月20日 これが本当なら「現代の特高」…前川元次官が語る告発ノベル「官邸ポリス」のリアル)。まさに、安倍・菅官邸は、公安警察が集めた個人情報によって、政治家や官僚の弱みを握って黙らせるという、独裁的な政治を進めていることが、元事務次官から告発されたといえる。 

警察の中立性の公然たる破壊

総理に不快な思いをさせないために、総理の演説に対するヤジは取り締まるように、全国の警察組織に対する指令が出ていたとすれば、このような警察権の行使は明らかに警察法2条違反である。総理の目となり、耳となって官邸を支える内閣情報調査室は、実質的には警察機構のトップに君臨しながら、警察組織ではないという理由で、警察法の軛を免れ、官邸の私兵と化している。

総理の目、耳

 
そして、安倍政権で長く内閣情報官を務めてきた北村滋氏が、国家安全保障局の局長に就任すると報じられている。もし、このような人事が実現するとすれば、外務、防衛両省のメンバーが中心の国家安保局のトップに警察官僚が上り詰めることとなる。露骨な論功行賞である。官房副長官の杉田氏が内政を、国家安全保障局長の北村氏が外交の指揮を執るとすれば、安倍官邸は、警察出身者に完全にコントロールされることとなる。 

遅れている原則5年ごとの自由権規約定期審査

自由権規約に基づいて設立された条約機関である自由権規約委員会による日本政府に対する第7回審査が近く実施される予定である。第6回審査は2014年に実施され、特定秘密保護法などの分野も取り上げられた。

第7回の審査は委員会の5年サイクルからすれば、今年審査が行われるはずであるが、委員会が日本政府に提出した事前質問リスト(LOIPR2017年12月)に対する日本政府の回答が提出されないために審査期日の設定ができず、審査が遅れている。委員会は、政府の報告書提出を待たずに、来春にも審査を行う方針を表明し、日本政府と協議を始めている。 

委員会の事前質問に共謀罪、秘密保護法、監視捜査などが取り上げられている

共謀罪については、法案審査中に、国連人権理事会の特別報告者であるカナタチ氏によって国際人権法の観点から共謀罪法とその前提となるプライバシー保護のための法制度が欠けていることについて厳しい批判がなされた。

事前質問リストとは、委員会が日本政府に対する勧告を準備している事項について、政府の詳細な回答を求めるものである。

事前質問リストの9項は、「有事及びテロ対策」が取り上げられ、自民党の憲法改正案の緊急事態条項が取り上げられた後に、共謀罪法における「組織的犯罪集団」、「計画」及び「準備行為」等の共謀罪の構成要件が、法的安定性及び予測可能性の原則を遵守していないとされていること、別表4に含まれる 277 の新たに設けられた犯罪にはテロリズム及び組織的な犯罪とは明らかに無関係な犯罪が含まれていること、表現等の自由が不当に制限され、自由権、公正な裁判を受ける権利が侵害されるおそれがあるとの懸念に対する返答を求めている。

また、22項では、プライバシーの権利に関連して、ムスリムを対象にした無差別な監視と情報収集活動を防止し、違法な監視に対するセーフガードと効果的救済へのアクセスについて報告すること、顔認証カメラを含む監視カメラの使用及びオンライン監視が法律で規制されているかについても質問している。

25項では、特定秘密保護法が取り上げられ、情報のカテゴリー・サブカテゴリーをより厳格に定義すること、知る権利に対する制約は比例原則に沿い、特定の国家安全保障の目的に限定すること、何人も正当な公共の利益に資する情報を流布したことで処罰されないこと、秘密保護法によって設立された監視メカニズムは十分に独立し、指定された情報にアクセスできるものとなっているかなどが質問されている。

2020年春にも予定される、第7回対日審査では、特定秘密保護法や共謀罪、監視捜査の規制などが取り上げられる可能性がある。

委員会が厳しい勧告を行えば、特定秘密保護法や共謀罪の適用を厳格に制限することに役立ち、さらに、プライバシーを保護し、監視捜査に対して実効性のある監視システムを構築することにもつながるだろう。 

プライバシーの保護が人格の自律を保ち、表現の自由など自由権の核となる

共謀罪の法案審議が頂点を迎えていた2017年5月、国連人権理事会の任命するプライバシー問題に関する特別報告者であるジョゼフ・カナタチ氏が、この法案が刑事法に求められる明確性を欠いていること、市民のプライバシー侵害を拡大する恐れがあるにもかかわらず、その歯止めを欠いていることを指摘する公開書簡を安倍首相に送った。

カナタチ氏は同年10月2日には来日され、日弁連における講演で、プライバシー保護のためのセーフガードについて、監視システムは、使用前に法律によって定められなければならず、実際の監視が行われる前に、事前の独立した認可を受けなければならないこと、国家による個人の行動の意図的な監視は、対象を特定し、合理的な疑いに基づいてのみ可能であること、国際的な監視システムが必要であることなどを提言されている。

カナタチ氏によって示されている条件は、極めて具体的で、日本でも、実施可能なものだ。カナタチ氏は、ここに述べられていることをプライバシー保護のための国際人権基準として結実させることを目指している。私たちも、ドイツやオランダなどのプライバシー保護の先進国に学ぶ必要がある。情報警察活動に対する市民的な監視を強化していくことも私たちに課せられた重要な課題である。

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GAFA規制の強化が急務

グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンなどの巨大IT企業が集めた個人情報ビッグデータが商業活動だけでなく捜査機関による市民監視にも使われている。このことは、スノーデン氏の告発によって、アメリカ政府が世界中から集めたデジタル情報を検索できるプリズムシステムやXkeyScoreなどのシステムの存在が世界的にあきらかにされた。

共同通信などの調査報道によって、検察庁が、約300の企業などのリストをつくり、捜査照会を利用し、個人情報を 取得していることが明らかになっ。リストには、航空、鉄道など交通関係の会 社、コンビニ、スーパー、家電販売店、携帯電話会社などさまざな企業名がのっているという。このリストは、警察の協力のもとにつくられた。捜査機関が、捜査関係事項照会制度を利用し、裁判所の令状なしで個人情報を取得していたのである。

これに対して、EUでは、GDPR指令が制定され、市民のプライバシー保護が図られようとしている。しかし、日本では、個人情報保護委員会は民間企業の規制の権限しかない。9月、リクナビが学生の同意を得ないまま内定辞退率の予測データを顧客企業に販売していたことが発覚し、この委員会が、リクナビに厳しい勧告を行った。しかし、公権力によるプライバシー侵害については、これを規制する機関が存在しない。監視社会による市民の自由の危機を防ぐためには、日本でも、GDPRにならって、政府から独立した機関によって巨大IT企業の情報の収集と保管と利用について、公的機関によるプライバシー侵害も含めて、厳格な規制を義務づけることが急務となっている。 

共謀罪は廃止できる

共謀罪は、おそらく最初は、暴力団や詐欺集団、人身売買、児童ポルノなどのケースが狙われ、「共謀罪は女性や子どもたちの安全に役に立った」というキャンペーンが張られるかもしれない。しかし、そうした事件の多くが、現実に組織犯罪集団によって繰り返されている既遂犯罪であり、新たに「共謀罪」を創設しなければ、本当に摘発できない犯罪であったかどうかを慎重に検証しなければ、共謀罪法の必要性を論証したことにはならない。

そして、2017年の秋の臨時国会には、立憲民主党、共産党、社民党、自由党などの野党共同提案によって共謀罪規定を廃止する議員提案法案が国会に提出され、この法案はその後も廃案とされることなく、継続審議となっている。2019年参議院選挙における立憲4党(社民党、立憲民主党、共産党、国民民主党)等と市民連合の政策合意の第2項に、「共謀罪」などの立憲主義破壊の法律は廃止することが盛り込まれた。野党連立政権の成立によって共謀罪を廃止することができる道筋が明確になったのである。開会中の国会では、参議院にも共謀罪廃止法案の提出を目指したい。

共謀罪は、市民が萎縮することなく、きちんと意見を述べられる社会を守るために、廃止しなければならないし、わたしたちの努力によって廃止できるのだ。

 



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