外部交通

2019年10月09日

同性愛関係にある受刑者同士の養子縁組の有効性 が認められた東京高裁判決

同性愛関係にある受刑者同士の養子縁組の有効性
            
が認められた東京高裁判決

 

                                    海渡雄一

                                    小竹広子

                                    川上資人

 

 

1 養子縁組の手続きの依頼を受ける

平成31年4月10日東京高裁第23民事部(垣内正裁判長)は、養子縁組した受刑者同士の信書発受を認めない甲府刑務所長の処分が違法であるとして国家賠償を認める判決を言い渡しました。

平成26年4月から同年10月にかけて、X1とX2は府中刑務所の特別改善指導を共に受講し、それぞれの生い立ちを包み隠さず話し合うプログラムの中で、急速に親しくなりました。

平成26年秋に、私(海渡)は、X1から、「突然甲府刑務所に戻され、X2と連絡を取ることもできなくなった。X1から、社会に出てからも、X2と一緒に暮らし、お互いに助け合っていきたいので、養子縁組届けを出したい」という手紙での依頼を受けました。

私(海渡)は、養子縁組が真意に基づくものであるかを確かめるために、2人の犯罪歴や知り合った経過、なぜ養子縁組をしたいのかをX1に手紙で問い合わせました。そのうえで、今度はX2に養子縁組の意思があるかを確認しました。この問い合わせに対して、X2は、平成27年2月に「縁組みしたい理由を一言で言いますと、愛しているからです」と手紙で答えました。

2人が真剣な思いを共有していることを確かめ、養子縁組の用紙に署名、捺印を順次郵送で取りつけ、平成27年5月8日に、X1とX2が養子縁組することを内容とする届けを役所に提出しました。そして、できあがった戸籍を2人に送りました。

 

2 認められなかった手紙の発信

ところが、平成27年6月9日X1がX2に信書を発信することを甲府刑務所に申し出ましたが、15日に発信禁止決定がなされたとの報告を受けました。私(海渡)は代理人として、2人の信書のやりとりを認めるように刑務所長に要望書などを送りました。しかし、刑務所の対応は変わりませんでした。

そこで、平成27年12月24日にX1X2を原告として、信書の発信差止処分の取消と損害賠償を求めて訴訟を提訴しました。代理人は海渡と川上の二人でした。

その後、X2は先に出所しました。平成28年6月に、私たちは、X2と打ち合わせをしました。X2は、「X1のことを好きだから、養子縁組をした。X1と一緒に生活し、同じ会社で働くか家事をしていく」と生活設計を話していました。

 

3 別件微罪で勾留中に拘置所でX2が急死

X1と連絡が取れない状況で、横浜市の福祉の窓口で担当者と言い争いとなり、窓口のプラスチックを壊したという器物損壊罪で逮捕勾留されました。この事件の弁護は海渡双葉弁護士に担当してもらいました。この事件では、X1は、詳しい嘆願書を作成し、採用されませんでしたが、情状証人になりたいと申し出ていました。

ところが、拘置所で勾留中に、平成28年12月22日悪性症候群という病気(服用していた向精神薬の副作用と考えられる)で急死するという悲しい出来事が起きました。急な知らせで、海渡双葉弁護士と川上資人弁護士に拘置所に駆けつけてもらい、遺体と対面し、その写真を撮影し、X1に送ることができました。

X2の両親は当初は、2人の養子縁組に戸惑っていましたが、X2がいままでやったことのない炊事などを同居生活の準備のためにしているところなどを見て、二人の励まし合って、更生するという真剣な思いを理解するようになっていきました。

火葬後、X2の両親は、お骨の一部を分骨し代理人に託し、出所後にX1に渡すことができました。X2の訴えは、その両親とX1が受継し、訴訟が継続されました。

 

4 一審東京地裁で全面敗訴判決

一審では、X1の尋問は甲府刑務所に出張尋問で実現することができましたが、平成29年7月11日東京地裁(林俊之裁判長)は、原告の請求全てを棄却・却下する判決を言い渡しました。X1とX2の養子縁組は「真に養親子関係の設定を欲する効果意思がないのに、専ら刑務所収容中の外部交通を確保する目的でされたもの」として無効と判断したのです。

訴訟審理中に、X1もX2と同性愛関係にあったことを認め、我々は、この養子縁組が、2人がこの関係を基盤にして、出所後も互いに助け合い、再犯をしないように励まし合って生きていくという真摯な合意に基づくものであることを主張しました。しかし、判決は2人が同性愛関係にあったこと自体を否定し、養子縁組を無効とし、X1の相続の権利まで否定し、X1固有の請求を棄却しただけでなくX2を受継したX1の請求を却下し、X2を受継した両親の請求も棄却するという、原告らの思いを全面的に封殺する受刑者と同性愛者に対する差別と偏見で塗り固められたような判断でした。私(海渡)は、養子縁組の手続きを手伝った弁護士活動まで否定されたように感じ、裁判所の無理解にやりきれない怒りを感じました。

 

5 丁寧に進められた高裁における訴訟審理

この判決に対して、X1とX2の両親が控訴しました。控訴審から、海渡、川上だけでなく、小竹広子弁護士に弁護団に加わってもらいました。

控訴審では、裁判所は、まず、関係受刑者1名の出張尋問を実施し、X1が過去に行った他の受刑者との養子縁組に関係する刑務所の内部資料の提出を国側に促しました。その結果、X1の過去の養子縁組も、同性愛関係が基盤にあったこと、その後気持ちが離れてしまい離縁に至ったことが判明しました。

X1が、母親や勤め先にもX2と養子縁組をして一緒に暮らすつもりであると知らせていたことも、二人の関係の真剣さを証明する証拠となりました。

また裁判所の主導で、争点整理とそれぞれ要件事実を再整理する作業が行われました。そして、最後には、同性愛者間の養子縁組の有効性についての、学説の動向をあきらかにするように、当事者双方に釈明がされました。このように、非常に丁寧な審理が行われ、合計で8回の口頭弁論期日を重ねました。

 

6 高裁における逆転勝訴判決の内容

そして、平成31年4月10日に言い渡された高裁判決は、信書の発信差し止めは違法であるとして、合計6万円の損害賠償を国に命じました。判決の重要部分を抜粋してみます。

「(1)養子縁組の意思について

民法上の養親子の適格要件は,未成年者を養子にする場合以外では,養親が成年であること(792条) ,養子が年長者又は尊属でないこと(793条)であり,養子が成年であっても,養子と養親との聞に年齢差がなくてもよいとされている。他方,養子縁組による民法上の法律効果は,養子が嫡出子の身分を取得すること(809条) ,これに伴い,扶養義務が発生すること(877条1項) ,互いに推定相続人となること(887条1項,889条1号)に加え,養子の氏を変更すること(810条)である。

そして,養子縁組の実質的要件として,当事者聞に縁組意思の合致があることが求められ,この縁組意思は,社会通念上親子と認められる関係を形成しようとする意思と解されるが,実親子関係にあっても,特に子が成年に達した後の親子関係の態様にほ様々なものがあり,必ずしも一様ではないし,上記のとおり,適格要件において,養子が成年であっても,養子と養親との聞に年齢差がなくてもよいとされていることをも踏まえれば,成年同士の養子縁組の場合にあっては,養子縁組に求められる縁組意思における社会通念上親子と認められる関係というのは,一義的には決められず,相当程度幅の広いものというべきである。そうすると,縁組意思があるかどうかは,様々な動機や目的のものがあり得る中で,上記の養子縁組の扶養や相続等に係る法的効果や,同居して生活するとか,精神的に支え合うとか,他方の特定の施設入所や治療実施に当たっての承諾をするとかなどといった社会的な効果のうち,中核的な部分を享受しようとしているときには,これを認めるべきと考える。」

 

「(2)同性愛関係にある者が,助け合って共に生活しようという意思について

前記認定のとおり,本件において,X1とX2は,同性愛関係にあり,両名は助け合って共に生活しようという意思を持って,養子縁組を行ったものである。

確かに同性愛関係にある者には,法律上,婚姻が認められていないことから,婚姻に準じた法律関係,社会的な関係を形成するために養子縁組を行うことがあるといわれており,本件においても,そのような側面は否定できない。

しかしながら,成年である養親と養子が,同性愛関係を継続したいという動機・目的を持ちつつ, 縁組の扶栂続係る法的効果や同居して生活するとか.精神的に支え合うとかなどといった社会的な効果の中核的な部分を享受しようとして養子縁組をする場合については、ず,養子縁組の法的効果や社会的な効果を享受しようとしているといえるのであるから,縁組意思が認められるといえる。年齢差のない成年同士の養子縁組にあっては,典型的な親子関係から想定されるものとは異なる様々な動機や目的も想定され得るものであり,その中で,同性愛関係を継続したいという動機・目的が併存しているからといって,縁組意思を否定するのは相当ではないと考える。

 例えば,養子の氏の変更のみを得ようとする養子縁組は,養子縁組の法的・社会的な効果の中核的な部分を享受しようとするものではないし,重婚的内縁関係の継続を動機・目的とする養子縁組は,重婚的内縁関係の継続それ自体が不適法なものであって,養子縁組として是認できない効果を求めるものといえ,いずれも縁組意思を認めることはできないというべきであるが,これらと異なり,同性愛関係の継続は,それ自体が不適法なものではなく,養子縁組の法的・社会的な効果の中核的な部分を享受しようとしている以上,縁組意思を肯定することができるといえる。」

 

「(3)本件について

「上記のとおりであるから,X1とX2が,同性愛関係にあり,両名が,助け合って共に生活しようという意思を持って,養子縁組を行った本件においては,両名に縁組意思を認めることができ.養子縁組は有効というべきである。」「以上のとおり,X1とX2の本件養子縁組は有効であるから,同X1は, 相続人であり,同人の訴訟手続を承継したということができる。」

 

「(4)本件決定の違法性の有無

刑事収容法上の親族に該当するかについて被控訴人は,X1ととの本件養子縁組は無効であるから,同X1の刑事収容法128条に定める親族には該当しない旨主張するが,上記(1)説示のとおり,本件養子縁組は有効であるから. X1の親族に該当するものであり,この点の被控訴人の主張は採用し得ない。」

 

「(5)本件養子縁組がもっぱら信書発受の禁止を潜脱するためにされたかについて

被控訴人は,仮に,X1に縁組意思が認められ,民法上は養子縁組が有効であったとしても,同人らはもっぱら刑事収容法による信書発受の禁止を潜脱する目的で養子縁組をしたから,同法における親族との外部交通に係る規定を適用する基礎を欠くものであり,信書発受を禁止した本件処分は適法である旨主張する。

しかし,X1とX2とは,同性愛関係にあり,互いに助け合って共に生活しようという意思を持って養子縁組を行ったものであって,養子縁組をすることにより受刑者同士であっても信書発受が自由になることを意はしていたとしても,もっぱら信書発受の禁止を潜脱する目的で養子縁組を行ったとは認められない。

以上のとおり, X1とX2は刑事収容法128条所定の親族に該当するから,同条にいう犯罪性のある者等に該当するとしても,信書発受を禁止することはできないこととなり,それにもかかわらず,X1からX2に対する本件信書の発信を禁止した本件処分は違法ということになる。」

 

「(6)故意又は過失の有無

この点について,被控訴人は甲府刑務所長が,X1ととの本件養子縁組が縁組意思を欠くものと信じたこと,又は,もっぱら刑事収容法による信書発受の禁止を潜脱する目的で行われ,信書の発受を禁止することができると信じたことにつき,注意義務違反はない旨主張する。しかし,前記認定事実のとおり,甲府刑務所長は,本件決定を行った際,X1とX2とは,従前には交友関係がなかったが,平成26年4月から府中刑務所において共に特別改善指導を受講したものであること,同年11月に同X1から海渡弁護土にX2との養子縁組の手続が依頼され,27年5月に同弁護士から養子縁組が成就した知らせがあり,信書発受が認められたら報告するよう連絡があったことを根拠に,同X1との本件養子縁組はもっぱら受刑者同士が信害発受の禁止を免れる目的で行ったと認定したものであるところ、控訴入ととの交流が府中刑務所における6か月余りの期間だけであったからといって,そのことから直ちに両名が養子縁組を行うほどには親密になることはないと推認することはできないしまた両名が養子縁組により信書発受が自由になることを意識していたからといって,そのことから直ちに本件養子縁組がもっぱら信書発受の禁止を免れる目的であったと推認することもできないのであり,甲府刑務所長が,そのような事実関係から,本件養子縁組をもっぱら信書発受の禁止を潜脱する目的で行ったと認定したことには,合理性も相当性もあるとはいえず,同X1がX2と同性愛関係があることを甲府刑務所に申告していなかったとしても,それによって上記認定に合理性や相当性が認められることになるとはいえない。

そうすると,甲府刑務所長は,本件養子縁組がされているのに,上記の合理性も相当性もあるとはいえない認定を行ったものであり,その職務上の注意義務を十分尽くしたとはいえない。」

 

7 受刑者処遇に関する判決としての意義

 最後に、この判決の2つの意義をまとめておきたいと思います。一つ目は、受刑者処遇に関する意義です。刑事収容法は、受刑者の通信の自由を広げました。これまで、親族と弁護士に限定されていた交通の範囲を、犯罪性がなければ原則として誰とでも通信できるように改めました(信書の内容による制限は残っていますが)。

ところが、近時、受刑者同士の通信は一律で「犯罪性のあるもの」とされ、禁止されています。そして、養子縁組をした場合でも、「外部交通目的の違法縁組みだ」などとして、信書の発信を認めない例が拡大しているように見えます。

今回のX1とX2は再犯防止プログラムの中で知り合い、自己の問題性を理解する中で、親交を深めていったのですから、刑務所は自分たちの進めているプログラムの効果に自信があるなら、養子縁組などしなくても、2人の間の通信を認めるべきだったと思います。

X1が先に出所したX2に実際に発信しようとした信書(X2の死亡後、X1の出所時に交付され、証拠に提出できた)には、就業や居住先についての助言や再犯しないように守るべき注意事項などが細かく書かれていました。

「この日、もう1人の原告男性(X1)は東京・霞が関の司法記者クラブで会見し、「(X2さんに)勝ったよと伝えたい。生きてこのときを迎えさせたかった」と涙ぐんだ。」(弁護士ドットコムニュースより)

この手紙がX2に届いていれば、X2の再犯も避けられ、生きて2人が一緒に暮らすことができたのではないかと考えると残念でなりません。「X2が亡くなった後、男性は寝食もままならなくなってしまったという。そんな中、ある刑務官が「俺たちの体制が間違っていたんだな」と漏らしたそうだ。」「刑務官の中には『人』として見てくれた職員もいました。旧監獄法から現在の法(刑事収容施設法)に切り替わってから、刑務所の待遇はよくなったと言われがちです。しかし、変わったのはうわべだけで中身はまったく変わっていません」と男性は語った。」と弁護士ドットコムニュースは報じています。この判決の第1の意義は、受刑者の社会復帰に役立つ外部との接触をむしろ奨励するという監獄法改正の原点に立ち返り、現在の外部交通を厳しく制約する現在の実務を見直すための材料にして欲しいということです。

8 同性愛のカップルが親族関係をつくる途を認めた

もう一つの意義は、LGBTの人々全体の人権保障に関わる意義です。同性愛者間の養子縁組は実際には多数行われてきたと考えられますが、その有効性を正面から認めた裁判例はこれまでにはありませんでした。民法の解説書を調べても、この問題に明確な法的見解を示している例はほとんどありませんでした。

私(海渡)は、今回の記者会見で、「すべてのLGBTの人たちにもこういう形で家族関係を築くことができたということを示すことができた画期的な判決です」と述べました。

同性愛 養子縁組


X1は「今回の判決をきっかけに、幸せな社会生活を送れるような差別・偏見のない国になってほしいと願っています」と訴えました(前同ニュース)。世界中で同性婚を認めるべきだという声が広まる中で、既に多くの国で、同性婚が法的な制度として認められています。日本では、パートナーシップ制度を自治体レベルで認めた例はありますが、同性婚は認められていません。この高裁判決は、同性愛の者同士が、互いに助け合う目的で養子縁組を行い、親族関係を築くことを正面から認めました。この判決は、過去に判例のないこの難しい法的問題に、考え抜かれた法論理で明確なすじみちを示したといえます。この判決は、今後の同性婚を正面から法で認めるための活動の弾みともなるといえます。そして、日本で同性婚の制度が作られる際には、親子が結婚することを禁じている民法734条の例外として、同性愛関係にある者が養子縁組をしていた場合には、一定期間、このような者同士が、養子縁組を解消した上で、同性婚を認める経過措置を認めるべきだろうと思います。

 




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